
第三の歯科医院選びは、さすがに最寄駅周辺で探すことに限界を感じていた。範囲を広げてみるが、どの歯科医院の公式サイトを眺めても決め手に欠く。これまで以上に増えた対象から、最良の歯科医院を選び出せるとは到底思えなかった。
探すべき歯科医院ははっきりしていた。歯周病治療のプロフェッショナルである。病状は、二つの歯科医院を受診して、いずれも歯周病が進行しているという診断なのだから疑いようがない。歯周病に精通した医師に治療を委ねたい一心だった。
検索方法を再考する中で、普段、学歴主義を微塵も感じさせない同僚の一言が気になった。「医者だけは学歴で選ぶ」という。これまで歯科医に限らず、医師の学歴は気にしたことがない。特に、歯科医は技術が求められるはずなので、学歴は関係ないと思っていた。
その同僚が二言目に発したのは、「二世の医者はろくでもない」である。この指摘には、鳥肌が立った。第一の歯科医院も、第二の歯科医院も、無意識のうちに二世の歯科医院を選んでいたことに気付かされたからだ。
思い返せば、歯科医院は自宅に近いところばかりを選んでいる。自宅に近いとなると、身内の口コミが大きく作用していた。年長者の口コミであれば、代替わりしていることもある。十数年来通っていた歯科医院は、まさにその典型だった。
二世に診てもらっていたという経験は、いつしか二世の歯科医院を率先的に選ぶことにつながっていたらしい。二世だからといって否定する気は毛頭ないが、二世だから選ぶという行為はあまりにも盲目的だ。見事なまでに自らの選択の癖が浮かび上がってきた。
試しに学歴を調べてみる。学歴がまったくわからない医師が一定数いることがわかる。学歴を伏せなければならない理由は不明だが、やましいことがあるのではないかと勘繰ってしまう。なお、学歴から歯科医院を検索するには「病院検索ホスピタ」が使える。
突如、学歴と言われても歯学部のある大学名が出てこない。そこで、歯周病の理解に役立った『長生きしたい人は歯周病を治しなさい』を著した、天野敦雄が所属する大阪大学歯学部卒で調べてみる。関西圏ではないこともあり、選べるほどの歯科医院がヒットしない。
ならば、日本の医学部、歯学部の頂点、東京医科歯科大学で検索をかけてみた。今度は、逆に多すぎる。個々の歯科医院の公式サイトを覗いてみても、最寄駅周辺での検索同様、果たして歯周病に強いのかが判然としない。
にっちもさっちもいかなかった。それでも、手掛かりを求めて検索結果を眺めていると、ある歯科医院の院長紹介に目が留まる。大学院を修了しているようで、専攻が記されていたのだ。
考えてみれば、大学院でなくとも、大学には講座とか、教室とか、研究室とか呼ばれる学部の配下に置かれる組織があるはずで、その組織のもとで臨床実習が行われるはずである。それぞれの医師で、関心のある得意分野が異なっていておかしくない。
これに気付き、「歯周病学 開業医」で検索をかけてみる。これまでとはまったく異なる検索結果に驚いた。歯周病学を開講している大学を除けば、プロフィールなどに歯周病学を明記しているサイトが表示される。
歯周病学を専門とする開業医が、見事に浮かび上がった瞬間である。表示される広告も非常に少ない。「歯周病学」と「歯周病」「歯周病治療」は、わずかな差であるが、後者は歯科医院が検索されるであろうことを見越して、広告掲載を依頼していることの表れであろう。
検索結果を一つ一つ確認していく。歯科医院の公式サイトをしらみつぶしに見るより、はるかに楽だ。歯科医院の場所と医師の年齢で絞り込んでいくと、選択肢はほぼ限られた。その中から一つを選び出し、翌日、予約の電話を入れることにして眠りについた。(つづく)
歯周病がやばい!
ぐらぐらになってはじめた歯科医院探し
<目次>
01 プロローグ―歯科医院探しに求めたもの―
02 歯科医院を選ぶ難しさ―病因、病名、病状がわからない―
03 決め手に欠いた最初の歯科医院選び―公式サイト、口コミサイトからの消去法―
04 ファーストオピニオンを求めて―医師による診断を知る―
05 ファーストオピニオンからの収穫―最初の受診で学んだこと―
06 迷走する第二の歯科医院選び―決め手のなさに、ぶれる選択基準―
07 丁寧な第二の歯科医院―隠れ家レストランならぬ、隠れ家歯科医院―
08 第二の歯科医院への揺らぎ―あまりにも突然すぎた自費診療宣告―
09 そして、振り出しへ―考えさせられたかかりつけ歯科医院としての見きわめ―
10 再三の歯科医院選び―無意識に行っていた根拠のない選択からの脱却―
11 かかりつけ歯科医院との出会い?―自らの選択への覚悟―
12 エピローグ―歯周病治療から見えてくる現代日本人を取り巻くネット環境と医療制度の問題点―






