
噛むことがままならず、食事はおかゆになった。歯科医院へは、すぐにでも駆け込みたかったので、最寄駅周辺で探すことにした。通院の利便性を考えても、自宅に近いに越したことはない。
調べはじめてすぐに、歯科医院がコンビニよりも多いという現実を目の当たりにした。その時は数を比べる余裕はなかったが、改めてグーグルマップで「最寄駅名」と「歯科」、あるいは「コンビニ」で検索をかけてみると、歯科の20件に対して、コンビニは7件だった。
最寄駅周辺に限定したが、なるべく網羅的に調べるよう心がけた。グーグルマップのほかに、全国津々浦々の病院の予約や紹介を行う「EPARK歯科」「ドクターズ・ファイル」「Medical DOC」なども利用した。ちなみに、これらで最寄駅の歯科医院を検索すると、いずれも60件前後がヒットする。
これだけあれば、一つぐらい、かかりつけにふさわしいところがあるだろうと高をくくっていた。それが淡い期待であったことは、追々書くつもりである。振り返ってみれば、ネットに転がっている不確かな情報に踊らされていたに過ぎない。
手はじめに、自宅周辺の歯科医院から情報収集を試みる。地図上で場所を確認しながら公式サイトの有無を確認し、あれば、院長紹介、治療方針、診療内容などを眺めていった。自ずと公式サイトをもたない歯科医院は対象から外れることになる。
公式サイトを開設していないのは、電子化が進んでいない、医師の年齢が高そうといったところに理由がありそうだと思うことで納得させることにした。熾烈な競争が起きていそうな歯科医院にあって、安定して患者がいそうなことは気になったが。
いくつかの公式サイトを眺めて、すぐに気付いたのは、どこも似たり寄ったりのことが書かれていることである。異なるのは院長紹介ぐらいで、診療内容には虫歯、入れ歯、歯周病予防、矯正、インプラント、ホワイトニングなど、歯科治療の大半が網羅される。
しかも診療内容の文面は、まるで教科書を写したかのように一律なのだ。選びようがなかった。ちなみに、歯科のある大学病院では、診療内容ごとに科が分かれている。この状況を踏まえれば、町中に歯のスーパードクターがあふれていることになる。
そんなこと、あるはずがない。たとえ何でも屋、もとい、総合歯科医院であっても得手不得手があるはずだ。残念ながら、大半の公式サイトで得意分野が伝わってこない。唯一の例外は矯正ぐらい。過当競争の中で、何でもやらないと採算が取れないのだろうか。
結局、公式サイトの閲覧では院長紹介がない歯科医院を外した。また、院長紹介があっても、院長の略歴が明記されていないものは除外することにした。どこの馬の骨かわからないので。それは、10年近く通っていた歯科医院がそうだったという経験にもとづいている。
複数の歯科医師がいる比較的大きな歯科医院も除外した。複数の医師がいる場合、得意とする治療が分かれていそうではあったが、初診で誰にあたるかが不透明だったし、担当が毎回変わることも懸念されたからである。
開始早々、暗礁に乗り上げた感じだが、口コミサイトは一見の価値がありそうだった。思い返せば、これまでの病院選びは家族や知人からの口コミに頼っていた。昨今では、赤の他人の口コミを見ることができる。次の一手として口コミを読み込んでいくことにした。
結論を先取りすれば、医師と患者の相性の良し悪しに帰結するコメントが多くを占めており、あまり使えない。しかし、公式サイトでは得られない歯科医院の治療スタンスが読み取れることは間違いない。この過程で、当然、口コミがないところは外れていった。
相性の良し悪しを的確に伝えるのは、星の数である。グーグルのレビューをはじめ、口コミサイトでは5段階評価を星などで表現するものが多い。星には、医師の技術の良し悪しが反映されなくもないが、総じて診療全般に対する満足度が現れている。
歯科医院に限らず、医療機関の星の数は、5か1であることが多い。無事に治療が終われば5、何かしら問題が生じれば1となる。したがって、星の数から見ると、5が多い、5と1が拮抗する、1が多いという3つのタイプに分かれる。
ただし、星の数だけで判断するのは早計である。コメントの中には受付の応対など、治療以外のことも含まれるので、内容に目を通すことは欠かせない。やはり、気になるのは星が1つのコメントである。星一つで、治療に関するものが大半を占めているところは避けたい。
口コミには歯科医院からも返信ができる。なかには、治療に対する不満のコメントに、治療内容の説明を回答しているところもある。診療時間内にきちんと説明ができていないことの表れと見て間違いないだろう。治療の説明は治療前に求めたい。
不満の中には、待たされるというコメントがちらほらある。予約制でありながら、待たされるのは予約を詰め込み過ぎなのだろう。診療時間の問題が指摘できそうである。時間の制約で、医師との意思疎通が図れないのではないか、と気がかりになる。
結局、公式サイトや口コミサイトを闇雲に閲覧しただけでは決め手に欠ける。やったことといえば、ネット上で情報が少ないものを機械的に除外し、口コミから直観的にやばそう、合わなそうと感じたところを消去していっただけである。そこに、科学的根拠なぞ一切ない。
頭が痛いことに、それでもかなり残っていた。さらに絞り込むための条件を設定してみる。余生を任せることを考え、年齢で線を引いたのだ。具体的には、順当に寿命を全うするという前提で、自分よりも少し上の50歳前後まででふるいをかけた。これがかなり効いた。
最初の歯科医院はファーストオピニオンを得るのが目的と割り切り、最後は力ずくで決めた。最終的には、口コミで治療に関する低評価がないところ、しっかりと説明してくれそうなところ、歯周病を想定して歯周病の先端的な治療に言及しているところを選んだ。
ここまでに2時間程度を要した。早速、電話してみる。さすがに土曜日とあってか、当日の受診はかなわなかった。最短の予約となる月曜日の診察をお願いして電話を切った。果たしてこれが吉と出るのか。診察では令和の歯科医院のスタンダードを体感することになる。(つづく)
歯周病がやばい!ぐらぐらになってはじめた歯科医院探し
<目次>
01 プロローグ―歯科医院探しに求めたもの―
02 歯科医院を選ぶ難しさ―病因、病名、病状がわからない―
03 決め手に欠いた最初の歯科医院選び―公式サイト、口コミサイトからの消去法―
04 ファーストオピニオンを求めて―医師による診断を知る―
05 ファーストオピニオンからの収穫―最初の受診で学んだこと―
06 迷走する第二の歯科医院選び―決め手のなさに、ぶれる選択基準―
07 丁寧な第二の歯科医院―隠れ家レストランならぬ、隠れ家歯科医院―
08 第二の歯科医院への揺らぎ―あまりにも突然すぎた自費診療宣告―
09 そして、振り出しへ―考えさせられたかかりつけ歯科医院としての見きわめ―
10 再三の歯科医院選び―無意識に行っていた根拠のない選択からの脱却―
11 かかりつけ歯科医院との出会い?―自らの選択への覚悟―
12 エピローグ―歯周病治療から見えてくる現代日本人を取り巻くネット環境と医療制度の問題点―






