
第二の歯科医院は、住宅街の真っただ中にあった。かつての町医者を彷彿とさせる風情である。とはいえ、住宅の一部を見事なまでに現代的な歯科医院に仕立てている。玄関を入れば、住宅であることは微塵も感じさせないつくりだった。
感染症対策にも余念がない。徹底した手指のアルコール消毒を促され、スリッパも真新しいものが提供される。やりすぎでは、と思わないでもなかったが、やりすぎで不快になることはない。隠れ家レストランならぬ、隠れ家歯科医院、そんな表現がしっくりくる。
予約時間に余裕をもって行ったが、ほかの患者と鉢合わせることもない。ファーストオピニオンの比較材料が得られればいい、そんな軽い気持ちで訪れた第二の歯科医院であったが、患者へのきめ細やかな配慮に診療への期待は膨らんだ。
間もなく診察室に通される。現在の病状からはじめ、十数年来通っていた歯科医院での治療、新しくかかりつけの歯科医院を探していること、ファーストオピニオンでの診断などを洗いざらい話す。親身になって聞いてくれた。
問診を終え、診察に入る。レントゲンは歯科用CTが兼ねていた。診療台には、ファーストオピニオンの歯科医院にはなかったマイクロスコープも装備されている。住宅風の外観からは想像もつかない設備の数々に驚くばかりだ。
撮影したパノラマ画像を見せられながら、診断が下される。歯周病がかなり進行していること、ぐらついてる歯は抜歯もしくは応急処置として削る、虫歯になっている親知らずも将来的に抜歯した方がいいという見解である。ファーストオピニオンと何ら変わらなかった。
ただし、説明は丁寧である。現在の病状に対して、その処置がどうして必要なのかを、入念に説明する。特に、噛めない原因であるぐらついてる歯の説明には時間が割かれた。ぐらついてる歯の処置の決断を迫られる。
ファーストオピニオンとまったく同じ診断であったことは、処置を受け入れるよりほかなかった。噛めなくなって一週間、さすがにおかゆ生活から脱したかったこともある。取り急ぎ、削ってもらうことにした。
初回の診療は、ここまでだった。会計後、次回の予約として1週間後を提示された。ファーストオピニオンの歯科医院とは異なる治療計画を立てていることに気付かされる。ファーストオピニオンの予約はまだ先だったので、ひとまず、ここでの診療で様子をみることにした。
翌日から普通食に戻してみる。若干の痛み、違和感はあるものの噛めないことはない。食べられることの喜びを噛みしめる。ところが、普通食に戻して2日が経過した頃、今度はぐらついている歯の歯茎が腫れてきた。
痛みが生じるようであれば、緊急に診てもらおうと思った。しかし、幸い痛みはない。とはいえ、この日を境に痛みにも負けず劣らない歯茎が腫れるという、いやーな感覚にさいなまされることになる。一抹の不安を抱えながらも、次回の診察まで待つことにした。
歯茎が腫れた状態のまま、二回目の診察日を迎えた。この間に起きた状況を説明し、患部を見せると、すぐさま腫れた歯茎を消毒する。そして、抜歯は歯茎の状態がよくなってからしましょうという提案を受けた。
歯茎の消毒後は、口腔内の写真撮影である。治具を使いながら口を開き、いろんな方向から撮影していく。これも初めての体験だった。今どきの歯科治療をまったく知らなかったことを痛感する。
この日のメインイベントはブラッシング指導だった。小学生以来のように思うが、歯垢染色剤で赤に染まった歯垢を、医師自らが歯ブラシできれいに落としていく。その様子を手鏡で眺めながら、歯ブラシの使い方を教わる。まさに「丁寧」の一言に尽きる。
1時間の診療時間の最後には、歯周病に関する説明を受けた。素朴な疑問、質問にも丁寧に答えてくれる。真摯な態度に、ここで腰を据えて治療を開始しようかと思いはじめていた。この時は、まさか3回目の診療で治療を戸惑うことになろうとは思ってもいなかった。(つづく)
歯周病がやばい!
ぐらぐらになってはじめた歯科医院探し
<目次>
01 プロローグ―歯科医院探しに求めたもの―
02 歯科医院を選ぶ難しさ―病因、病名、病状がわからない―
03 決め手に欠いた最初の歯科医院選び―公式サイト、口コミサイトからの消去法―
04 ファーストオピニオンを求めて―医師による診断を知る―
05 ファーストオピニオンからの収穫―最初の受診で学んだこと―
06 迷走する第二の歯科医院選び―決め手のなさに、ぶれる選択基準―
07 丁寧な第二の歯科医院―隠れ家レストランならぬ、隠れ家歯科医院―
08 第二の歯科医院への揺らぎ―あまりにも突然すぎた自費診療宣告―
09 そして、振り出しへ―考えさせられたかかりつけ歯科医院としての見きわめ―
10 再三の歯科医院選び―無意識に行っていた根拠のない選択からの脱却―
11 かかりつけ歯科医院との出会い?―自らの選択への覚悟―
12 エピローグ―歯周病治療から見えてくる現代日本人を取り巻くネット環境と医療制度の問題点―






