
夕食は相変わらず、おかゆだった。治療してないのだから、当然である。おかゆを口に運びながらも、頭の中は今日の診療のことでいっぱいだった。これまでの歯科医院とはまったく異なる設備については好印象ではあったが、今後の治療方針が気になる。
食後、改めて診察を受けた歯科医院の公式サイトを眺めながら、今一度、今日の診療内容を確認してみる。今後、通院に値するのかを思量しつつ、比較対象とすべき第二の歯科医院をどうやって選ぶのかを考える。
待望のファーストオピニオンで得られた病名は、予想していた通りの歯周病だった。しかも、かなり進行しているという。それを見越して、公式サイトで歯周病の最新的な治療に言及していた歯科医院を選んだつもりである。
その治療とは、歯周病で溶けてしまった歯を支えている骨を再生するというものである。もし、この治療に見込があるのであれが、たとえ自費診療でもやってみたい。近年の最大の楽しみは、おいしいものを食べることにあるといっても過言ではないので。
ところが今後の治療として、この治療には一切触れられなかった。抜く、さもなければ削るの二択を迫られただけである。この治療に言及しないことには、すぐに気付いた。が、あえて聞くこともしなかった。選択肢に入っていないと察知したから。
それには伏線もある。予約時間よりも早く着き、問診票の記入を一通り終えた頃、先客と医師の会話が耳に入ってきた。次回は抜歯するので準備しておくように、とのことである。抜歯という選択が常態化していると思わずにはいられなかった。
近年では、削らない、抜かない治療が常識であるらしい。歯は抜くな、という親の教えを盲信してきたので、喜ばしい限りである。しかし、ほとんどの歯科医院の公式サイトでスローガンに使われているだけに、削らない、抜かない治療では選びようがない。
ご多分に漏れず、受診した歯科医院の公式サイトでも、まず歯を残すことを考える、が治療方針のトップにきている。さらに、医師の十分な説明による患者の了承のもとで治療を進めるインフォームドコンセントの重視も掲げられていた。
確かに、ぐらぐらになった歯を抜く、あるいは削る処置の理由として、かなり進行した歯周病という説明はあった。しかし、歯周病が進行していることの原因はいまいちわからない。残せない理由の説明はあったようにも思うが、得心に至るものではなかった。
一方、ぐらぐらの歯とは別に指摘された、虫歯のある親知らずの抜歯は理解できた。削れない場所だから抜歯が必要という説明はわかりやすい。結局、歯周病という病気が理解できていないということかもしれない。
今から思えば、医師の診断の際には抜く、削るという言葉に頭の中が真っ白になっていた。歯科衛生士による歯周ポケットの測定時に気付いたのは、抜歯した後の処置である。入れ歯になるのか、そのままなのか、別の方法があるのか……。
歯科衛生士からは、ブリッジという方法があることを教わった。しかし、医師が立てているであろう治療方針は不明である。処置を拒んだからかもしれないが、予め将来的な治療方針が提示されなければ、処置をためらうのも無理はない。
考えれば考えるほど、公式サイトで掲げている治療方針とは大きく異なるように思えてくる。現時点で、これ以上の判断は保留にすることにした。第二の歯科医院と比較してから、最終的な決断を下せばいい。
第二の歯科医院探しをはじめることにした。もちろん、検索のキーワードはファーストオピニオンで得られた歯周病である。ところが、歯周病で歯科医院を選ぶのは困難をきわめた。気付けば、歯周病というキーワードを忘れてしまうことになる。(つづく)
歯周病がやばい!ぐらぐらになってはじめた歯科医院探し
<目次>
01 プロローグ―歯科医院探しに求めたもの―
02 歯科医院を選ぶ難しさ―病因、病名、病状がわからない―
03 決め手に欠いた最初の歯科医院選び―公式サイト、口コミサイトからの消去法―
04 ファーストオピニオンを求めて―医師による診断を知る―
05 ファーストオピニオンからの収穫―最初の受診で学んだこと―
06 迷走する第二の歯科医院選び―決め手のなさに、ぶれる選択基準―
07 丁寧な第二の歯科医院―隠れ家レストランならぬ、隠れ家歯科医院―
08 第二の歯科医院への揺らぎ―あまりにも突然すぎた自費診療宣告―
09 そして、振り出しへ―考えさせられたかかりつけ歯科医院としての見きわめ―
10 再三の歯科医院選び―無意識に行っていた根拠のない選択からの脱却―
11 かかりつけ歯科医院との出会い?―自らの選択への覚悟―
12 エピローグ―歯周病治療から見えてくる現代日本人を取り巻くネット環境と医療制度の問題点―






